債務整理 借金返済|農協のずさんな融資の責任所在は?


主 文

1原告の被告らに対する請求をいずれも棄却する(第1事件・第2事件)。
2訴訟費用は原告の負担とする(第1事件・第2事件)。

事実及び理由

第1請求

(第1事件)
被告Y1,同Y2,同Y3及び同Y4は,原告に対し,連帯して1億円及びこれに対する平成10年5月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(第2事件)
被告Y5及び同Y6は,原告に対し,連帯して3000万円及びこれに対する平成10年5月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

本件は,原告が,原告の組合員 に対する貸付金の回収が不能になったことについて,貸付を行った当時の理事及び監事に対し,善管注意義務及び忠実義務違反(委任契約上の債務不履行)があったと主張し,貸付金相当額の損害賠償を求めた事案である。
1前提事実(争いのない事実及び証拠により容易に認定できる事実)(1)当事者
ア原告
原告は ,平成11年4月1日,承継前原告X1農協(以下「承継前原告」という。)を含む県内の40の農協が合併(新設合併)して設立された農業協同組合法に基づく法人である。
承継前原告は,平成10年4月8日X2農協を合併(吸収合併)した。
イ被告らは,次の表の各「就任の日」欄記載の日に原告(合併前のX2農協)の理事に就任し,「退任の日」記載の日までその地位にあった者である。
被告 就任の日 退任の日
被告Y1 平成3年5月6日 平成9年4月29日
被告Y2 平成3年5月6日 平成10年4月8日
被告Y3 平成3年5月6日 平成6年4月29日
被告Y4 平成3年5月6日 平成10年4月8日
被告Y5 昭和63年5月6日 平成3年5月5日
被告Y6 昭和63年5月6日 平成3年5月5日
被告Y5及び同Y6は,次の表の各「就任の日」欄記載の日に原告(合併前のX2農協)の監事に就任し,「退任の日」記載の日までその地位にあった者である。
被告 就任の日 退任の日
被告Y5 平成3年5月6日 平成8年4月29日
被告Y6 平成3年5月6日 平成6年4月29日
(2)原告(合併前 のX2農協)は,平成5年9月30日,丁1株式会社に130億円を,同社代表取締役であった丁2に29億1950万円をそれぞれ貸付けた(以下「本件貸付」という。)。
同社は,平成5年11月1日,地方裁判所に対し,会社更生手続開始を申し立てて倒産した。これにより,この両貸付金は回収不能となった。
(3)本件貸付がされた当時の原告(合併 前のX2農協)の定款には,組合員に対する貸付金の最高限度額は総会の議決を経るべきものとされ,この定めに 基づく平成4年5月5日の総会決議では同年度の前記金額は9億8000万円,平成5年5月5日の総会決議では同年度のそれは10億2000万円とすることが定められた。
丁1株式会社及び丁2はいずれも本件貸付当時原告(合併前のX2農協)の組合員であった。
(4)原告(合併前のX2農協)の丁1株 式会社及び丁2に対する貸付は 昭和40年ころから継続的にされてきたが,平成4年1月ころから平成5年11月(会社更生申立ての時)までは,貸付残高はおおむね200億円前後の数学で推移してきた。
このような集中的な貸付は,前記の原 告(合併前のX2農協)の定款によれば違法 であることが明らかで,原告(合併前のX2農協)内部では公知のものであった。
被告らは,遅くとも平成5年4月9日には,このような違法な貸付があることを知っていた。
(5)農協理事及び監事の任務
農協監事は,理事の業務執行を監査し,何時で も理事,職員に事業の報告を求め,農協の業務及び財産の調査をし,理事に法令定款に違反する行為があるときは総会で報告するのみならず理事会にも報 告し,必要であれば自ら理事会を招集し,理事の法令定款違反行為により農協に著しい損害を生ずるおそれのあるときは理事の違反行為を差し止めるべき職務上の義務がある。
農協の理事会は代表理事等の業務執行 について監督する地位にあるから,理事会を構成する各理事は,農協に対し,理事会に上程されたことがらについて監督するにとどまらず,代表理事や専務理事の業務執行一 般についてこれを監督し,必要があれば少なくとも理事会を自ら招集し又は招集することを求め,理事会を通じて業務執行が適正に行われるようにすべき職務上の義務がある。
2争点
(1)本件貸付の性質
(2)被告らの義務違反行為
(3)原告の被った損害額
3争点に対する当事者の主張
(1)争点(1)(本件貸付の性質)について
(原告の主張)
本件貸付は,現実に当座預 金から出入金がされ丁1株式会社の資金需給に資しているのであって,原告の伝票にも「新規取組」とされていることからも,現実に金員の移動を伴う金銭消費貸借であった。
(被告らの主張)
原告(合併前のX2農協)は,昭和61年ころから丁1株式会社との取引を継続していた。
丁1株式会 社が原告(合併前のX2農協)に開設していた当座勘定には,平成5年9月30日に次のような取引があった(なお,表中の「原告」はいずれも合併前のX2農協である。)。
ア入金
a 77億5900万円 受取手形
b 3500万円 受取手形
c 70億円 原告からの借入金
d 60億円 原告からの借入金
イ出金
e 3124万1095円 原告への借入金利息返済
f 2697万8082円 原告への借入金利息返済
g 88億円 原告への借入金返済
h 58億円 原告への借入金返済
i 58億円 原告への借入金返済
前提事実(2)の丁1株式会社への貸付は,上記のcとdに相当するが,これは,上記のg,h,iの各返済のための資金として貸し付けられたことが明白である。
そうすると,前記貸付は,これを実質的にみると,従前からの貸金についての期限の利益の付与とみるべきものであり,新たな貸付がされたものではない。
(2)争点(2)(被告らの義務違反行為)
(原告の主張)
被告らは,前提事実(5)記載のとおりの監事の監 査権限又は理事の代表理事に対する監督権限を有するところ,原告(合併前のX2農協 )がしていた前記違法貸付を知悉した平成5年4月9日以降,同貸付を解消し,農協に 損害が発生 しないようにすべき義務があったのにこれを怠り,何らの措置をとることなく違法貸付を放置し,原告が更に本件貸付を行うことを漫然と放置し,原告に後記損害を負わせた。
(被告らの主張)
原告の主張を争う。
(被告Y5及び同Y6の主張)
被告Y5及び同Y6は,平成5年4月8日及び 9日の両日,他の監事らとともに監査を実施した。
 この際,原告(合併前のX2農協)調査室から提出された報告書においては,丁1株式会社に対する貸付,担保についてこれを違法と認めるべき事実は報告されていなかった。
このころ,丁1株式会社について経営不安が報道されるなどしたため,監事らにおいては,4月9日時点の貸付残高を報告するよう調査部長に強く要求した。
右調査の結果,丁1株式会社に対する 約100億円にのぼる担保不足が判明したため,両被告を含む監事らにおいて,理事長 ,専務理事に対し経過説明を 求めるとともに,丁1株式会社関係の担保不足を速やかに解消すること,丁1株式会社に対する新たな貸付を絶対にしないこと,その他適切な措置を講ずることを強く求めた。
平成5年7月9日以降の理事会においては,両被告を含む監事らは,この不正貸付や担保不足について理事長,専務理事を強く糾弾しその責任を追及している。
このように,被告Y5及び同Y6は,農協監事としての職務義務を十分に尽くした。
(3)争点(3)(原告の被った損害額)
(原告の主張)
被告 らの義務違反行為により,本件貸付金のうち丁1株式会社に対する分の110億2843万1428円,丁2に対するもの29億1950万円が回収不能となったものである。
したがって,理事である被告Y1,同Y2,同Y3及び同Y4並びに監事である被告Y5及び同Y6は,これらの損害を賠償する責任がある。
原告は,一部請求として,被告Y5及び同Y6に対しては前記損害合計のうちそれぞれ3000万円の,その余の被告にはそれぞれ1億円の支払を求める。
(被告らの主張)
原告の主張を争う。
原告の主張する損害は,本件貸付以前に累積した現実の貸付金によって発生したものであり,本件貸付との因果関係がない。

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第3当裁判所の判断

1証拠(甲1,2,15 ,24の1の1・2,24の2の1・2,24の3の1ないし14,24の4の1・2 ,24の5ないし9,25の1,25の2の1ないし 3,25の3の1ないし3及び証人戊)及び弁論の全趣旨に前提事実を総合すると,X2農協の丁1株式会社に対する貸付の態様等について次の各事実を認めることができる。
(1)平成5年3月末におけるX2農協の出資金額は8億1141万円,貯金量は926億4893万9000円,貸付金高は551億9897万3000円であった。
(2)平成5年9月30日及び同年10月1日の,原告(合併前のX2農協)における丁1株式会社の当座貸越口座の出入金状況は,次のとおりであった。
ア入金額
平成5年9月30日
77億5900万円・・・・・・・・A
 3500万円・・・・・・・・B
 70億円・・・・・・・・・・・・・C
 60億円・・・・・・・・・・・・・D
同年10月1日
 73億円・・・・・・・・・・・・・E
イ支払額
同年9月30日
3861万6469円・・・・F
55万3660円・・・・G
3124万1095円・・・・H
 2697万8082円・・・・I
 88億円・・・・・・・・・・・・・J
 58億円・・・・・・・・・・・・・K
58億円・・・・・・・・・・・・・L
同年10月1日
9億5000万円・・・・・・・・M
 65億円・・・・・・・・・・・・・N
 3169万4000円・・・・O
上記のうち,Aは,丁1株式会社が振り出した他行小切手の額面合計,Bは,己株式会社が振り出した他行小切手の額面合計である。
C,D及びEの入金(うちC及びDが 本件貸付に相当する。) は,いずれも支払期日を平成5年10月29日とする手形を丁1株式会社が振り出す方法により行われたものであり,H,I及びOはいずれも同手形貸付の利息相当金である。
F,G,M及びNは,いずれも丁1株 式会社が振出した小切手を原告に交付することによる当該当座貸越口座からの出金であり,出金されたもののうち,Mは庚1銀行の ,Nは庚2銀行の丁1株式会社の各口座に振り込まれた(F,Gについては,M,Nに対応するような振込伝票はないことから,現実に現金が交付されたものとみられる。)。
J,KないしLは,同年8月31日及び同9月1日に丁1株式会社が振り出した手形の満期が到来したことに伴う出金である。
(2)原告と丁1株式会社の取引は,昭和 40年頃からされていたところ,平成4年9月ころ以降については,下記のとおり,手 形貸付について,月末から月初にかけ,3口又は4口の貸付(合計額は200億円前後 の額)を実行し,そ の一か月後にそれらの貸付金を回収し,ほぼ同時に合計額がほぼ同じとなるような3通又は4通の手形を振り出して貸付を実行するとの手形貸付とその回収を繰り返していた。
ア平成4年9月末から10月初
手形振出日手形期日金額
9月30日10月30日45億円
10月1日10月30日70億円
10月1日10月30日80億円
(合計195億円)
イ同年10月末から11月初
手形振出日手形期日金額
10月30日11月30日95億円
11月2日11月30日50億円
11月2日11月30日20億円
11月2日11月30日50億円
(合計205億円)
ウ同年11月末から12月初
手形振出日手形期日金額
11月30日12月31日50億円
11月30日12月31日50億円
12月1日12月31日20億円
12月1日12月31日90億円
(合計210億円)
エ同年12月末から平成5年1月初
手形振出日手形期日金額
12月31日1月29日60億円
1月4日1月29日20億円
1月4日1月29日67億5000万円
1月4日1月29日67億5000万円
(合計215億円)
オ同年1月末から2月初
1月29日2月26日55億円
1月29日2月26日55億円
2月1日2月26日50億円
2月1日2月26日55億円
(合計215億円)
カ同年2月末から3月初
2月26日3月31日77億5000万円
2月26日3月31日77億5000万円
3月1日3月31日58億円
(合計213億円)
キ同年3月末から4月初
3月31日4月30日90億円
4月1日4月30日60億円
4月1日4月30日61億円
(合計211億円)
ク同年4月末から5月初
4月30日5月31日45億円
5月6日5月31日84億円
5月6日5月31日80億円
(合計209億円)
ケ同年5月末から6月初
5月31日6月30日45億円
6月1日6月30日82億円
6月1日6月30日80億円
(合計207億円)
コ同年6月末から7月初
6月30日7月30日89億円
7月1日7月30日68億円
7月1日7月30日50億円
(合計207億円)
サ同年7月末から8月初
7月30日8月31日85億円
8月2日8月31日60億円
8月2日8月31日60億円
(合計205億円)
シ同年8月末から9月初
8月31日9月30日88億円
8月31日9月30日58億円
9月1日9月30日58億円
(合計204億円)
2上記認定によると,原告は,遅くとも平成4年 10月末ころからは,一か月ごとに手形を切り替える手形貸付の方法により,丁1株式会社に対し,常時200億円余の資金を融資していたのであり,本件貸付当時は,それと並行して,約70億円の実質的な資金移動のある取引をしていたものと推認される。
そして,前記1のJ,K及びLの合計 額は204億円であり,C,D及びEの合計額は203億円であること,J,K及びL は,1か月前に振り出された手形の決済であったことを合わせ考えると,C,D及びE の手形貸付は,前記J,K及びLの手形貸付,ひいては遅くとも平成4年9月末ころよ り継続している200億円余の手形貸付についての現実の回収を回避するための方策に 過ぎず,実質 的な貸付がされたものではなく,いわば期限の利益の供与とみるよりほかはない。
本件貸付は,これらの一連の手形の切替とは別個無関係な,新規の貸付であるとは考え難い。
仮に,原告主張のように,C及びDの 本件貸付が,従前の貸付とは独立した,新たな与信行為ととらえるとすると,当該貸付 は合計130億円という額であり,当時の原告の出資金額及び総貯金高等に対し相当の 比率を占めるたこととなる高額の取引だったのであるから,相応の貸付先,資金使途に 関する調査や,原告における稟議 等を経る手続が要求されると考えられるが,本件貸付に際し,これらの調査や稟議がされた形跡は,本件証拠上一切伺えず,原告の主張は本件事実経過にてらし採用できない。
3そうすると,その余の点を判断するま でもなく,前提事 実(2)記載の本件貸付は,実質的にも新規貸付であるとする原告の主張は採用できず,これを前提とする被告らの本件貸付に対する注意義務違反を想定することはできない。
4原告は,丁2に対する貸付についても 問題とするが,証拠(甲29,戊証人)によると,原告は,同人に対する貸付について は,利息だけを入金し,帳簿上は元金の出入金があった形はとっていても,現実の資金 移動はなく ,元金の返済を求めていなかったことが認められ,結局のところ,丁1株式会社に対する貸付と同様,9月30日に丁2に対し実質的な新規の貸付があったとも認められない。
したがって,丁2に対する貸付に関する被告の注意義務違反を問題とする原告の主張についても,その前提を欠き採用できない。
5そうすると,原告が,被告らの注意義 務の対象とする本件貸付は,すべて実質は帳簿上の出入金にすぎず,これを期限の供与と みるよりほかはないものであり,新たな貸付行為と認めることができないから,これを前提とする善管注意義務違反及び忠実義務違反の主張はいずれも失当というほかはない。
 (なお,仮に期限の利益の供与自体を義 務違反行為として問責する余地があるとしても,証拠(甲7)及び弁論の全趣旨による と,丁1株式会社が平成5年11月1日に会社更生申立てをしたのは,手形決済資金9 5億円余を用意できなかったことによるものであるところ,その約1か月前の9月30 日に,原告が200億円余の貸付について期限の利益を供与せず,130億円の資金を 丁1株式会社から現実に取り 立てようとしたとすれば,即座に丁1株式会社は倒産に追い込まれたであろうことは容易に想像がつくのであって,本件貸付と損害発生間に因果関係がないことは明白である。
また,原告の主張を,平成4年来の丁 1株式会社に対する融資それ自体を義務違反行為ととらえるものであると善解しても, その義務違反の成否に関しては,その当時の丁1株式会社 の信用状態及び経営健全化の見込みの判断等が問題となるが,この点は当時の理事等の経営判断に属することであるばかりか,当該見込み等に関する原告の主張立証もない。)
6結論
以上の次第で,その余の点を判断するまでもなく,原告の被告らに対する請求にはいずれも理由がないから,これを棄却する。

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